NIHON MARINE SERVICE Ltd.

日本マリンサービス株式会社の海事コンサルタントの事例として、当社および関連企業である昭陽汽船株式会社の2018年の台風20号・台風21号における対応について記した論文を発表いたしました。(PDF資料も用意しております。)

 

国際戦略港湾における災害時の水路保全について
~タグボートの重要性を再認識~

昭陽汽船株式会社 代表取締役会長 奥野 誠
執行役員 國安 政幸

 台風20号が平成30年8月24日未明から朝方にかけ、続いて台風21号が同年9月4日昼過ぎから夕方にかけ、非常に強い勢力を維持したまま、右半円が大阪港を通過し大阪港においても、暴風、高潮により大きな被害が発生したことは記憶に新しい。(図1参照)

図1 台風進路図

 当時、当社のタグボートにおいては、大阪港内の泊地で錨泊するか、風波浪の影響の少ない岸壁に係留し、乗組員は全員保船要員として乗組んでいた。
 台風通過時はたまに走錨による救助要請があり、当社も可能な限り対応できる体制を取っているが、今回の2つの台風は、思いもよらぬ漂流物を発生させた。漂流物は航行障害物となり、2次災害を発生させる可能性があったが、乗組員の機転により速やかに情報収集できたため、結果として2次災害を未然に防ぐことができた。今回あらためてタグボートの優れた堪航性及び操縦性を確認するとともに、港内の常駐タグボートが自然災害後の水路の保全に対して非常に有効であることを再認識できた。

1. 台風20号による大型浮桟橋の流出及び回収

 台風20号の影響により、小型旅客船用浮桟橋(全長34m 大阪市港湾局所有)が、天保山西岸壁から流出し、安治川上流に向け漂流した。安治川で荒天避泊中の当社タグボート誠陽丸が同桟橋を発見し、必要な連絡を行った上、荒天の中、薄明時まで漂流浮桟橋を監視した。風雨が弱まり薄明時になると同時に、他のタグボート2隻も出動して同浮桟橋を回収し、弁天ふ頭南岸壁まで曳航して係留した。(図2参照)
漂流浮桟橋の発見時の気象状況は、天候r、風向S、風速Ave15~20m/s(Max28m/s)の荒天であったが、たまたま誠陽丸は6,000馬力の機関出力を有しており、荒天であっても、浮桟橋の衝突や沈没に対応する用意をしながら漂流状況を監視できた。
図2 浮桟橋漂流状況

2. 台風21号による40ftコンテナ24本の流出及び回収

 台風21号による暴風と高潮により、国際フェリー岸壁(KF2)から多量のコンテナが流出し、南西寄りの風により安治川を遡上したため、台風が通過して風が収まった後も避難体制が解除されない状況となった。避難体制が解除となれば、タグボートがサポートする入港船へ航行安全情報を提供する必要が生じるため、当社タグボートは早目に台風避泊を解除し、依然15m/s前後の強風の中、港内を巡視して航路及び泊地の状況を確認し情報収集していた。当社タグボート優陽丸(4,500馬力)は、大量のコンテナが漂流していることを確認し、国際フェリー岸壁にあったコンテナであること、10 本が安治川沿いの護岸に打ちあがっていること、10本以上が安治川を漂流していることなどの情報を本社及びポートラジオへ報告し、本社からも関係機関に報告していた。大阪港長からは、コンテナの所有者に対し「速やかに回収する」よう指示が出されており、コンテナ管理会社から漂流状況を把握している当社へ回収作業の依頼があり、当社は、タグボート、小型ボート、測量船、潜水士及び起重機船を手配の上、海没コンテナ2個を含む依頼のあった流出コンテナ24 本を全て回収し陸揚げした。また、これに要した時間は3日間であった。(図3参照)
図3 流出コンテナの所在(結果)
 本作業が成功した理由は、コンテナ流出状況を事前に把握していたこと及び以下に示す理由により、タグボートをフルに活用できたことが最大要因であったと考えている。

  1. 十分な計画を立てる時間はなく、常に関係機関との情報交換と現場判断が求められたこと。
  2. 複数の作業が広範囲で行われ、全体を見た広域警戒が必要であったこと。
  3. 航行船舶に対し事前周知はなく、国際VHF により交信して注意喚起を行う必要があったこと。
  4. タグボートの測深機を活用したコンテナ捜索を行う必要があったこと。
  5. 指揮船として、各社の担当者が常駐でき、各作業の打合わせ及び外部と頻繁に連絡が取れる十分なスペースが必要であったこと。

まとめ

 今回の事例から、港湾における台風、高潮、津波などの自然災害における港湾機能の復旧、特に水路の保全に関しては、タグボートが最も迅速かつ安全に対応できる船舶であることが証明できたものであり、今後、自然災害発生時において、港湾管理者等からの時間のかかる諸手続きがなくとも、港内に常駐するタグボートが迅速に対応できる仕組みを構築することが、港湾機能をより早く回復できる一つの手段であると考えている。今後、港湾管理者等の関係行政機関において、タグボートが躊躇なく作業を開始できるような協定を、タグ会社と締結されることに期待したい。
 最後に、今回の作業において、大阪海上保安監部及び大阪市港湾局にご協力いただいたことに感謝する。